そして私はパーソナルジムに通い始めた。
担当するトレーナーは基本的に決まっていて、私の担当はFトレーナーと言う体のムキムキ具合に若干不釣り合いにさえ見える童顔の男性。
初回のセッションはまず、リビングにて10分程食事制限についての話を聞き、聞き終えたらいよいよトレーニングルームへ移動。
食事制限の内容に関しては前回のブログで書いた内容ですので、まだ読んでいない方はぜひ読んでみて下さい。
(因みにジムのトレーナーは私の様な論調ではなく、もっと寄り添う様に話してくれます。)
リビングに隣接するトレーニングルーム内には、スミスマシンという大きなバーベルなどがセットされているラックと、エアロバイクと体重計が鎮座している。
順番は前後するが、リビングにて食事制限の話をする前に、ジムが用意してくれている服に着替えて体重測定を終えている。
トレーニングはまず、エアロバイクを漕ぐところから開始。
無理のない、話す余裕がある位の強度で10分。
始めに有酸素運動を取り入れる事で、その後行う筋トレの際も効果的にカロリー消費を促せるのだそうだ。
そしてこのジム通いのある種「核」となる種目からトレーニングは幕を開ける事となる。
それはズバリ
スクワット
である。
まずは正しいフォームを教わって、自重のみ(重りによる負荷をかけてない状態の事です。)で行う。
10回行ったら1分休憩。
その短い休憩中に
「凄くフォームがいいですね。かなり運動慣れしている様に見受けられます。あ、どうぞ座ってお水を飲んで下さい。疲れますよね?」
と矢継ぎ早に話すFトレーナー
「腰は大丈夫ですか?」
とフォローも忘れない。
「えぇ、まぁ、はい。」
と答えながらも
なんか思ったより楽だぞ・・・。
食事が7割と言っていたし、実はトレーニング自体はそんなにきつくないんじゃないか?
そもそも俺は太っているけど運動は嫌いじゃないし、さっきFトレーナーが言ってたみたいに、実は俺、筋力自体は多くて優れているのかもしれない。
等と楽観的に考えていた。
1分間の休憩ですら持て余し、大して喉など乾いていないのに、用意された水素水を口に運ぶ。
「なるべく沢山飲んで下さいね。」
1分間の休憩の間に忙しなく次に行う運動の準備だろうか、スミスマシンを色々弄りながらFトレーナーが声をかけてくる。
前回のブログには書いていなかったのだが、糖質の制限の他、1日に摂るべき水分量も定められていた。
今しがた説明されたばかりなのだが
1日最低2リットル(あくまで水)
は摂る様に言われていた。
ピピピッ
と
1分間にセットされていたタイマーが小気味よく鳴り響き、どこか持て余した休憩を終える。
「さぁ。それではこちらへいらっしゃって下さい。」
言われるがままにスミスマシンに近づく。
丁度私の肩の位置より少し下あたりにバーベルがセットされており、それを潜る様にして肩に乗せるよう促される。
重りは何もついていないのだが、ずっしりと重みを感じる。
それもそのはずだ、バーベルだけで20キロ程あるとの事。
バーベルを肩に乗せ、先程教わった様にスクワットを行う。
大丈夫。俺は運動ができるデブだ。
10回を終えると
「すごいですよ!とてもはじめてとは思えない!さぁ休憩して下さい。」
と褒められる。
まだまだいけそうである。
やはり俺はいけている。
ピピピッ
小気味よくタイマーの音が鳴り響き再びスミスマシンに向かう。
今度は重りがついている。
「さぁ!張り切っていきましょう!」
先程までと若干テンションが異なっている気がした。
持ち上げた瞬間思った
これがスクワットって奴だったのか。
先程まで行っていたそれとはまるで異質の運動がそこには待っていた。
なんとか必死な思いで10回持ち上げる。
全力で走ったかの様に息が切れていた。
そして滝の様に汗が流れる。
ピピピッ
嘘だろ
心の中で突っ込んだ
「さぁ!張り切っていきましょう!」
先程と同じセリフを同じテンションで言うもんだから一瞬夢かと思いましたよ。
でも違いました。
重りが増えてました。
とにかく頑張ろう。
途中から体が言う事を聞かなくなってきて
「がはっ」とか「アァー」とか様々な声が自然と溢れ出る。
永遠とも思える時間が経過し、倒れこむ様に椅子へとへたり込み水を飲み干す。
膝が笑ってら
ピピピッ
もうこの音やだ
「さぁ!張り切っていきましょう!」
もうこのセリフもやだ
もはや沈んだまま一生浮かび上がる事は不可能なのではないか?と言う地点をなんとか通過し浮かび上がる。
この瞬間においては、存在意義だとか幸せの定義だとか、勿論仕事の話や遊びの話。その全ては消え去り、ただただ
しゃがむ、立ち上がる
を繰り返さなくてはいけないと言う、機械的な思考になる。
さながら
「目標をセンターに入れてスイッチ」
である。
とてつもなく長い事行っているかの様な口ぶりだが、まだ5回残っている。
声にならない声は、歯ぎしりに近い音を立て始め、限界はすぐそこまで来ていた。
するとFトレーナー
「まだ終わらない!」
と体を密着させフォローに入る。
後半はほぼ二人三脚で持ち上げ、どうにか乗り切った。
もう立てない。
何度か漏らしたことのあるセリフだと記憶しているが、本当に立てなかったのはこの時がはじめてである。
こうして初回のセッションは終了した。
「明日か明後日か、筋肉痛凄くて歩けないかもしれないのでお気をつけ下さい。」
そう言われてジムを後にしたが、帰り道既に歩けず、這いつくばる様にして帰路へついた。
この時は筋肉痛が怖かったが、程なくして
筋肉痛がない一日の方が怖いと感じる様になってくる。
いわゆるプラシーボ効果にも近い感覚だが
人間とはいとも簡単に負の体験を正の体験に変える事の出来る面白い生き物だ。