日常

免罪符

以前勤めていた会社での通勤途中の話である。

電車を降りてから当時の職場に辿り着くまでの間に、とある建設中のモールがある。

大規模な医療モールを建設中のようで、毎朝大勢の作業員の方がそこへ流れ込んでいく。

その建設現場の横を通り過ぎようとしたある朝

「ちょっと止まって。」

と突然警備員さんが道を塞ぎ声をかけてきた。

びっくりして立ち止まると警備員さんは続け様に

「今、駅から直接そこの路地を通ってきただろ?知ってると思うけど、ここ通行禁止なんだよ。」

と言った。

何の事かさっぱり解らなかった。

どこにもそんな事は書いてないし、何より私以外にも沢山の人が利用している道だ。

釈然としない顔をしていると

「何その顔。知らない訳ないよね?自分が悪いことしてるんでしょ?」

と若干興奮気味に捲し立ててきた。

私は若干頭にはきたのだが、それ以上に何が起きているか解らず、とにかくなんでこの道を通ってはいけないのか尋ねてみる事とした。

「あの、この道を通ってはいけないという事を私は知らなかったんですが、他の人たちが通ってる中でなんで私だけが通ってはいけないのでしょうか?」

それを聞いた警備員さんは顔を真っ赤にして

「ルールだからだよ!決められたことも守れないのか?お前所属はどこだ?!」

と言ってきた。

ルール?所属?

なんの事かまだ解らなかった為

「所属とは勤務先の事なのでしょうか?だとしたらこのさきの山を越えたところにある〇〇という会社なのですが」

と返答すると、途端にバツが悪そうな顔をして

「通っていいよ。」

と、道を開けた。

「どういう事ですか?今のは何だったんですか?」

聞いても帰ってくる返事は

「もう行っていいよ」とだけしか返ってこない。

その後周りを見渡して注意深く観察していてようやく気付いた。

作業員の方はみんな、駅からまっすぐ続いている最短距離の道(私が通ってきた道)ではなく少し遠回りをして、利用する人が少ない道を歩いて現場へ向かってきていた。

恐らくこの現場のルールで、作業員は一般の通行人の邪魔にならないように駅から迂回して現場へ向かうように指示がされていたのだろう。そして警備員さんは作業着っぽい服装の私を見て作業員の1人と勘違いをして注意をしてきたのだろう。

苛立つよりも、なぜかスッキリとした気分になり私は職場へ向かった。

後日、2回ほど別の警備員さんに同じ内容で話しかけられたので、自分はここの作業員ではない旨を伝え、説明を求めると大凡上記の考察の通りである事が判明した。

頭にくる出来事ではあるが、よくよく考えると警備員さんは、自身の職務を全うしようと、一所懸命だったのだ。

地域住民に迷惑をかけてはならない、安全・安心を守り抜くことが警備員の存在意義であるとの強い信念あってこその行動であったのではないかと思う。

サボろうと思えばいくらでも気づかないフリは出来たであろう。

だからこれはこれで立派である。

・・・・とも言い切れない。

まぁ殆どの人がおいそれと

「そうだよな。頑張ってるんだもんな。」

とは思えない事だろう。

頑張っていたことは事実であるが、失礼な態度を取っていたこともまた事実。

警備員さんは間違いを認めるべきであったし、私に謝るべきであったろうとも思う。(私の感情の問題ではなく)

頑張っているあまりに、人を傷つけている事に気付けない場合がある。

頑張って行ってきたことであるから自分は間違っていないと思う、または指摘を受け入れられない事がきっと私にだってあると思う。

一所懸命に頑張った

という言葉を、人を傷つける免罪符にはしてはならない。

しかし、誰しもがし得る事なのである。